落語の「唐茄子屋政談」みたいな名前のトーナスくんが東北巡礼を
終えて、味噌をつくりにこられた。
エプロン姿もさまになっていて、はじめてとは思えないくらい
手捌きがいい。前世は本人もいってるけど、「日本人」に違いない。趣味が「おへんろ」「ねぶた祭」「温泉」「味噌つくり」。
トーナスの前は、「前世はフランス人」だと信じているTさんが、味噌を
つくりにきた。彼女は天真庵の二階で「竹の教室」をやっていたころからのつきあいなので、
前日の「おさ」と同様、味噌つくりも10年選手だ。最近は「麹二倍」で味噌をつくるので、
持ち帰る味噌の目方が、普通の人よりも重い。に、かかわらず、「久保さんのドリッパーと珈琲カップも買っていきます」
という。「それは重すぎて、新宿のマンションに辿りつく前にへばるばい」といって、あきらめさせた。
というか、来月くらいに「ドリポット」と「珈琲カップ」の新作ができそうなので、「それができたら連絡する」にした。
一瞬、フランス人形みたいな笑顔になって、重い味噌をリュックに積んで新宿へ帰っていかれた。
今日も朝おきたら、お米を研ぐ(冬は一時間ほど水につけておきたい)。その後石油ストーブと、ペレットストーブをつけて、その上に「寸胴」(ずんどう 味噌つくりのため、大豆を水につけている)をおく。近くのコンビニに新聞を買いにいき、読んでいる間に、囲炉裏の炭をおこす。
その間に、そば打ちの準備やそばつゆなどの細かい仕込みはあるけど、鼻歌うたいながらちゃちゃとこなす。
炭火がおきたら、能登の珪藻土竈にうつし、羽釜をのせる。15分ほどで炊きあがるので、「用意うどん」もとい「よういそば」
で、水回しを始める。つまりごはんが炊けるのと、水回しの競争。
電気釜でごはんを炊くと、「早炊き」でも45分ほどかかる。土鍋や羽釜で炊くと、15分くらい。つまり「火力」がそんなに
違うのだ。それが、「ごはんの味」に反映しないはずがない。少し便利な暮らしから、逆行するけど、「ひと昔前の暮らし」
に時計をもどすと、「ゆたかさ」を再発見すること多しだ。
昨日は、開店と同時にこられた喫茶店の女将さんが「UFO」を買っていかれた。
脇にいた噺家さんみたいな人が「これ一個売れるといくら儲かるの?」と無粋なことをいった。
「定価は一億なので、儲からない」と答えた。
使う人が、お金に換算されない「ゆたか」を実現できれば、幸いである。まわりの人もきっと幸せになれる。
寸胴の中の「大豆」も、UFOで焼かれる珈琲豆も、羽釜のお米の一粒一粒も、みな命いっぱい生きている。
この季節は「粒々皆辛苦」という禅語が、身に染みる。ぼくたちも、その仲間の一粒也。感謝。