秋の銀ブラ+

先週の朝日新聞に、久保さんの器が写真で紹介された。
そこの下に漆を塗ってる親子の写真があって、「バカ塗りの娘」という映画の広告だった。
津軽塗の職人の物語。銀座のシネマスイッチで上映中とあった。

さっそく、水曜日に観にいく。押上から都営浅草線の「宝町」で降りる。
5年くらい前まで、毎週のように宝町にいった時期がある。
「一楽堂」という銀座の七不思議に入るような不思議な骨董屋があった。(80を過ぎて、主人は緞帳を下げた)

頼山陽と田能村竹田の書簡から命名した「一楽堂」の主人は、東大出だったけど洒脱で
飄々として、壁には「一時間以上はおしゃべりしないでください」と手書きの張り紙があったけど、
ほとんど55分くらいは、主人が機関銃のように勝手にしゃべっていた。
そして最後に「気にいった掛け軸があったら、支払いはいつでもいいので、どうぞもっていってください」
といって、品定めが終わると、丁寧に包んでくれて、京都の和菓子などといっしょに手渡された。
だから、いつも銀座にいくと、すってんてんになったり、借金をかかえて家にかえることになった。
天真庵にある茶掛けの8割は、一楽堂さんから買った。頼山陽と田能村竹田の軸は買ったけど、
池大雅の軸はついに買えず、嫁の玉蘭の軸を「ままよきんたまおとこのこ」で買ったことが懐かしい。

そんなことを思いながら、銀座を徘徊。松屋の駐車場のところにある「隕石屋カフェ」の前までくる。
自分の焙煎した珈琲を銀座で飲む、という不思議な縁をいだだき、ぼくの銀ブラは、このお店と切ってはいけない
縁になった。先月は焙煎した豆の注文が8kやった。でも小腹がすいたので、煉瓦亭にいって、チキンカツレツとビールで昼ごはん。
2時過ぎの放映だったので、「まつや」の地下一階にある「茶の葉」という小さなお茶専門店で玉露を飲んだ。
6席ほどのカウンター席のお店。玉露を二煎と和菓子がついて1000円でおつりがくる。
お茶のお弟子様に京都の開花堂の茶入れを頼まれていたので、7階?の器のコーナーにいって、買い求めた。
ぼくが買った20年前の二倍の値段だった。

映画はなかなかおもしろかった。小林薫も味のある役者になったけど、ヒロインの子の笑顔がよかった。能登へいくと、よく輪島塗の職人さんのアトリエへ遊びにいく。
天真庵のあったかいそばは、「合鹿碗」とか「輪島塗」の椀で供することにしている。
どちらも、一客5万くらいするけど、使えば使うほど古色がついて「育つ」器は、なんともいけない風情がある。
能登には「大雅堂」という老舗の漆屋さんがある。池大雅は、風雅な茶人たちや骨董好きの人たちのあこがれ。
ここに重箱とか、お椀のセットを頼むと、国産の高級車を一台買うくらいの予算が必要だ。でも車は5年ものると、
価値が限りなくOになる。でも上手に育てると、漆器は買ったときより光沢をはなち、値打ちも愛着も増えるばかりだ。
「ばか塗」に通じるような話だけど、風狂というのは、そんなもんだ。
ときどき、能登で「そば会席」をやる時は、秘蔵の「大雅堂」の蓋つきの漆椀でそばを食べるようにしている。

映画の後は、プラプラと新橋まで歩いていき、中学くらいからいっしょに酒を飲んできたマッタイと、
「ととや」で、美味いとと(魚)をアテに、日本酒を飲んだ。最高の銀ブラ+新橋ブラの一日。感謝。

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