月光仮面のおばちゃん

昔、この界隈は「映画の街」だった。
よくテレビに紹介される「橘キラキラ商店街」は、「キラキラ館」
という映画館があったから、そう呼ばれるようになった。そのほかにも
何件か映画館があったり、撮影所があったり、おまけにストリップ小屋も
今の「燕京亭」(えんきょうてい)という中華屋さんの近くにあった。
月光仮面も、ロケ地が「香取神社」だった。

燕京亭の主人は、かっぽれの先生まさこさんと同級生。齢(よわい)80を少し超えていらっしゃる。
ふたりとも、「元気印」。でもお店に「体調不良でしばらくお休みします。また再開する時にはお知らせします」
と貼紙が。先日徘徊散歩をしている時、親父さんにあって、「どうです?」と聞いたら、「白内障の手術をしたけど、
眼の調子がいまいちです」とのこと。80を過ぎても、毎日のように、近くのグランドにいって草野球に興じておられる。
「最近、普通のフライを捕る時、エラーをしたので、仲間が『眼があがった(下町では、そのようにいう)んじゃない』といわれ、
病院にいったら、医者が『すぐに手術ですね』といわれ、左目を手術した」とのことらしい。
飲食業をながくやっていると、どうしても立ち仕事で、足腰が悪くなったり、血が下にさがり、下肢動脈瘤になったりするリスク
が高い。ぼくも、時間があれば、「ごきぶり体操」「自彊術体操」「中村天風体操」「ヨネクラボクシングジム体操」・・・
これまでやってきたもろもろの体操を、無手勝手流にアレンジしながら、体をほぐしている。「無理せずゆっくり療養してください」
といって、握手をして別れた。暑い夏に、この店のギョウザとビールを飲むと、元気百倍で、〆の五目そばを食べると、十間橋通りを
スキップするような気分になる。

昨日の夕方、髪を赤く染め、バイクにのって颯爽とそばを手繰りにくるおばちゃん(75歳)が
やってきた。ぼくは密かに「月光仮面のおばあちゃん」と呼んでいる。
数か月前に、お店のショールームの中の「UFO売ります。定価一億円」を見て、天真庵デビューされた。
「少しまかるの?」というので、「常連になると1万円です」と答えた。「どうすれば常連に・・?」
というので「珈琲を一杯飲めば、常連です」というと、バイクをお店の前において、「ほぼブラジル」を
飲み、UFOを買っていかれた。それからこっち、♪真っ赤な髪は(本家は、黄色いマフラー)正義のしるし、
よろしく「モカが入ったんですって?」とかいっては、元気な顔してお店に惨状されるようになった。

カウンターに置いてあった「104歳になってわかったこと」を見て、「おもしろそうね」というので、「どうぞ」
といったら、本をめくりながらキャッキャ笑いだした。
「そうなのよ。歳をとるにつれて、わからないことが増える・・・バカはなんでも知っているフリしてるけど、好奇心と
向学心がある人は、だんだんわからないことが増えるわね」とのこと。さすがカリスマケアマネージャー。

「コロナのおかげで家族葬が増えたけど、UFOを買う時みたいに、みんな値切らないと損ね。
平均したら、東京でも30万くらいでやれるはずなのに、メンツとか相手のいうなりになって、すぐに100万
くらいだしちゃう。焼き場の入口のカタチで値段が違うなんて、ばかげてるでしょ。中に入ったら同じで、いっしょに灰に
なるだけ」と笑った。

施設などにはいると、どうも男のほうが面倒らしい。とくに現役時代に「肩書」がついているのが、ガンコジジー
になる傾向が強いとか。そんな人に向かって「男は引き際が美学でしょ」と説教する毎日だそうだ。
おまけのように、「男は社会の縦関係にしばられ、上も下も立てなきゃならんでしょ。でも引退すれば、上は立たない、
70を過ぎれば、下も立たなくなる。かわいそうね」といってカカッと笑って、またバイクにのって、颯爽と仕事に
でかけていった。
映画館も撮影所もなくなった街に、まだ当時の地縛霊が生きているかのような光景だ。

昨日は、その後、おばあちゃんと小3のお孫さんが「そば打ち道場」に入門してきた。
今日も16時まで営業。それから「そば打ち道場」「UFO焙煎道場」

明日の朝は「卵かけごはん」
明後日から金曜日までは、お休み。

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