悠玄亭玉さんの愛犬コバナが旅立った

台風15号の影響で、一日雨模様だった日曜日、生まれたての赤子を
だくように、常連さまが入ってきた。余命いくばくもない老犬が、バスタオルにくるまれていた。
「コバナがここにきたがっているようなので連れてきました」とのこと。
もう寝た切りで、目も白内障で真っ白。でも、なんとなく懐かしく思ったのか、
お店の中の「たまちゃんの残像」を追っているようだった。

元浅草芸者で、晩年は三味線のお教室をやりながら、時々浅草の東洋館や、各地のイベントなどで
幇間(ほうかん 一種のお座敷芸)をやっておられた「たまちゃん」こと、悠玄亭玉さん。
晩年は近くに住んでいたので、引っ越してきてからこっち3年間、ほぼ毎日のように来てくれて、「そばと珈琲」
を注文された。彼女の誕生日の6月には「誕生日ライブ」をやって、みなを笑わしてくれ、お弟子さまの発表会も
天真庵でやった。彼女がいる間は、うらぶれた十間橋通りに、三味の音がしていた。
最初は「バナナ」という犬を買っていて、その後釜にきたのが、その子分か子供か、そんな意味
あいもあって「コバナ」になった。近所の子供たちにも人気ものになった。

2018年の夏、たまちゃんが旅たち、ひとりきりになったコバナを、カリスマ動物病院の医院長が
ひきとり、面倒を見ていた。名にしおう「厳しい先生」(犬のためを思い、飼い主は厳しい)だが、下町人情と男気も時代おくれなくらい、あふれている。
ときどき、応援するボクサーの試合を見に後楽園ホールのリングサイドに応援にいくけど、きっとまわりの人たちは、ぼくらを見て、
「昔懐かしいどこかの組の人」(リングサイドには、そんな人がいっぱいいた)と思っていたに違いない。

そしてお別れを言いににきた翌日、コバナが旅立った。17歳。

昨日、珈琲の道具を買いに、押上から浅草を通って合羽橋まで徘徊散歩をした。
今でも時々、彼女が贔屓にしていたお店から、ひょこっとでてきそうな気配がすることがある。

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