奥能登 つばき茶屋

奥能登、珠洲に「つばき茶屋」がある。
元気のいい漁師の奥さんと、娘で切り盛りしているお店で、少し小高い里山にあり、
季節には、いろんなつばきが百花繚乱と咲き、海を借景にしながら、新鮮な魚に舌鼓を打つ。
人気メニューは、イカを使った定食。名前が「いかさま定食」という。なんともいかしたお店なのだ。
毎月のように、珠洲には塩やジャムや炭を調達にいくので、おなかがすくと、元気をもらいに
茶屋に立ち寄る。その店の本棚に「高倉健の美学」(文藝春秋)があった。
漁師(にかぎらず)は、みな高倉健が好きだ。

先日、近くのブックオフにいくと、「高倉健の美学」が売っていた。
さっそく買って読んでみた。彼が生前にインタビューに応じた「言葉」を集めた本。
珈琲が大好きで、こんなくだりの文章があった。
木曜日が、「珈琲塾」だったので、4人の生徒さんたちにも披露した。

179「コーヒーは、それを飲ませる店で飲むのがいい」

酸味が強いものより、どちらかといえば苦みがあってこってりとした味のほうが好きだという程度で、
珈琲の味をとやかくいうほうでもない。もっとも、「今日は飲まなかったな」と思う日でも、二十杯は軽く
飲んでいるから、味のことをそううるさくもいえないだろう。
(略)
とにかくコーヒーは、それを飲ませる店で飲むのがいいのである。それだけに、もしかしたら、私がうるさいのは、
コーヒーそのものよりもその店の雰囲気ということになるかもしれない。
 広いうえ、終始、人の出入りがあって落ち着かぬ店じゃ困る。音楽が会話を邪魔するほどに大きいのも困る。
そんな条件にかなう店は、前を通っただけで、なんとなくわかる。
それでドアを押した瞬間、あったかい珈琲で迎えられるようであれば、そこが私のコーヒーを飲む場所となる。

天真庵のおいしい珈琲の定義を、健さまに一度朗読してほしかった。
「不器用ですいません」みたいに・・・

のみ口 ひと口めが すっきり
人肌に さめても まったり
あと口 余韻が  一時間

短いけど、彼らしいのが

137「人生は切ないんだよ」

 人生は切ないんだよ。その切なさを奥歯でクッと噛みしめなければ、本当にきれいな夕陽は見られない。

随所に「北九州で生まれ育ったことを誇りに思っている」みたいな文章もあった。
彼が青春をおくった時代、小倉や黒崎の街には、ヤクザも跋扈していたけど、「いい喫茶店」
が、あまたあった。そんな街で生まれ育ったことを、ぼくもまた誇りに思っている。感謝。

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