ゲイ一筋

あちらのゲイではない。芸。
邦楽の家元でときどき天真庵に蕎麦を手繰りにくるエライ先生がいる。
生まれた時からその道をいく天命と店名みたいな家柄のボンでもある。
行きつけの骨董屋のオヤジが連れてきた不思議な縁でつながっている。

「秋は酒だね」なんていいながら、独酌をする姿は、歌舞伎役者の
ように、さまになっている。久保さんの鼠志野のぐいのみを贔屓にしていて、
親指とひとさし指でつまんで、真ん中より少し親指がわに口をつける。
少し浅めのぐいのみに入った「ちえびじん」をくいっと飲む。なんとも絵になるのだ。

3合くらい飲まれた時に、ぼうテレビ局の重役がひょっこりのれんをくぐって入ってきた。
彼は池袋の天真庵にいつもなぜだか「天狗舞」という石川の酒をぶらさげてやってきた。
早稲田大学時代に演歌歌手をめざして修行をしていた奇人でもある。
同じく「ちえびじん」を久保さんの織部の六角杯で飲みはじめた。

このふたりが、あわないわけがない。1時間後には、4席はなれて座っていたのが、
隣同志になり、さしつさされつで、トラトーラオートラ。
カウンターの中で仕事をしていながら、お座敷遊びをしている風情を楽しんだ。

重役さんはぼくよりひとつ下で今年還暦。邦楽生は、再来年還暦。
つまりぼくがほんの少し先輩になる。
邦楽生は、テレビマンのことを「にいさん」「にいさん」と呼びながら酒を飲む。
そしてたったみっつ年上のぼくのことを「おとうさん」と呼ぶ。
これも長い芸の道で学んだ処世術なのだろうか、と、ふたりの奇妙なおとうと、むすこ
の楽しそうに酩酊した顔をながめていた。

♪みっつ違いの兄(アニ)さんと・・・   あとかたづけをしながら、知らないうちに口づさんでいた!

「壺坂霊験記」(つぼさかれいげんき)という浄瑠璃の有名な台詞で歌舞伎などでもつかわれた。昭和の良き時代に京都のや東京でも
ちょっとしたお店でよく聞いた下りである。今は昔だな~

今日は「満つまめの会」  夜、蕎麦打ちもある。