能登は、どんより曇っている。
「ちょい投げ」で、キスを狙った。
キスは、群れにあたると、入れ喰いになるので、釣り針を二つか三つつけて、
投げる。宗像に住んでいた高校時代まで、よく白石浜にいって釣った。
白石浜は、キス釣りのメッカで、大会が開催されるような釣り場だった。
そのころは、遠くに飛ばす。しかも、竿も二三本用意して、キスを狙っていた。
真夏の暑い中、よくやったものだ。クーラボックスに冷えたビールをいれて(笑)
一度、北九州から遊びにきた友達といっしょに釣っていて、
彼が熱中症になって、救急車を呼んだことがある。ひょっとしたら急性アルコール中毒?
入院することもなく、その日に宗像の家に
泊まっただけで、よくなった。彼の渾名は、高校生なのに「じいちゃん」だった。
あれから半世紀くらいたったけど、じいちゃんは、じいちゃんとして半世紀も生きたのだろうか?
今日は小さなキスが2尾だけ釣れた。
いつもの道(行と帰りは、すこし違うルート)、解体された家の隣で、おばあちゃんが野菜を収穫
していた。顔をあわすなり「こんにちわ」と笑った。「解体したんですね?」
「この集落で一番よ」とのこと。今は仮設住宅に住みながら、毎朝軽トラを運転して畑にくるらしい。
「仮設住宅では、なにもすることがないから」という。
「釣れた?」「ちんこいキスが2尾」というと、笊に収穫したばかりの、ナス、キュウリ、ピーマンを
くれた。「大漁になったね」とばあちゃんは笑った。
反対の立場で、自分が住む家を失ったとしたら、こんなことできるかな、と自問。ぜったい「否」と自答。
急いで帰って、昨日ドリップした「ほぼブラジル」のアイス珈琲をもっていった。
「かえって、悪いわね」といわれ、「な~んも な~んも」と能登弁で返した。
ほんとうは、返す言葉もないくらい、複雑な心境だった。
能登はやさしや 土までも