五月の名を冠したビールによくあう煎餅

福井に里帰りしていた「お世話しあうハウス」の女将さんが「ただいま」
といって、そばを手繰りにこられた。
いつも、福井で昭和50年から愛されつづける「五月ヶ瀬」(さつきがせ)という、
ピーナツたっぷりの煎餅をもってきてくれる。そして必ずひとこと「歯に気をつけてね」。
少し固めの煎餅だから、最初はそうろうと噛むのだが、ビールなどと合わせると、つい
調子にのって、すわりの悪い歯で噛んだりして、危ないことしきり。84歳で総入れ歯の先輩
に歯の心配させるのだから世話ない。

「ところでマスターは、なぜスマホにしないの?」と、カウンターの中に鎮座したガレケー型の携帯
を見てポツリ。「お店をやめたら、ガラケーもなしでいこうと思ってます」
と答えたら、「そんなんじゃ、老後を生きていけないわよ。新幹線のチケットの予約、美術館や映画のチケットの予約でしょ。
いろいろ便利よ」といって、新しくした「らくらくスマホ?」をかばんから出して笑う。
「え・・・いつスマホにしたの?」とぼく。「福井に帰る三日前。でも手続きに3時間かかったし、使い方の説明
はないのね。なにが『らくらく』なのよね。まったく・・・奥さんいる?」と女将。

二階にいた筆子さんが「おかえりなさい」と降りてきた。
「スマホにしたんだけど、毎日くるメールをぜーんぶ削除する方法を教えてもらえないかしら?」と女将。
「わかりました。簡単だけど、全部消すの?」と筆子さん。
「いつ死ぬかわからないでしょ。だからきたメール、だしたメールはその場で全部消したいの」
「死んだ後に、男の人からきた恋文みたいなんが残っているって素敵じゃない」と、ちょっかいをいれたら・・
「携帯は旧式だし、女ごころを解せないし、車の運転もしないマスターみたいな旦那をもつと苦労するわね」と、話が妙なところに向かいはじめた。

女将さんのスマホの「全部消し」の方法を伝授され、ご機嫌の女将は「お礼にお酒もってくるわね」といって、
十間橋通りを闊歩していかれた。
元気で長生きの女性たちは、人生の後半に「おひとりさま」になることが多い。もともとの生命力も強いうえに、
生活力か順応力も、男よりすぐれているように思う今日このごろ。
スマホはいらないが、そろそろ、軽トラを買って、ひさしぶりに能登路を運転してみようかしらん。

シルバー川柳 ふたつ 

・LED 使い切るまで ない寿命
・三時間 待って病名 「加齢です」