お世話しあうハウス

ひとは、いずれひとりで暮らすようになる。一度も結婚しない人も
いっぱいいる。この界隈はシャアハウスがいっぱいある。参考までに・・界隈のシエアハウスの家賃は65000円。
地方から東京の大学にきて、親の仕送りだけで生活している人の一日の使えるお金の平均が660円。
学生街の喫茶店で、珈琲飲みながらボブデュランを聴いてる場合じゃない、のが実情だ。
新しい資本主義なんかじゃない、「新しい生き方」をそれぞれが実践していかないと、持続不可能な時代かもなんばん。

ときどき、ひとりでそばを手繰りにくるおばあちゃんがいる。珈琲だけの時もある。
お寺さんの敷地内のマンションに住んでいて、界隈では一番古い分譲マンションで、女性の
独居老人が多く暮らしている。そのおばあちゃんは、夫さんと小さな会社を経営していたが、
はやく先立たれ、会社を整理し、そのマンションを購入したらしい。80歳になった。
でもそこの住人の中では「若手」で、毎朝下の階の95歳のおばあちゃんの朝ごはんを食べさせ、
薬を飲ませ、自分の家に帰ると、常連さんたちがやってきて、朝ごはん。ちゃんと味噌汁の出汁は
築地にいって、鰹節や煮干しや干しシイタケなどを調達し、味の素などはいっさい使わぬ主義だ。

朝ごはんが終わると、洗い物を台所に置いたまま、またさきほどの95歳のおばあちゃんと一時間ほど散歩。
気分や天気によって、亀戸コース、スカイツリーコース、京島コースのみっつから選んで、仲良く散歩
するのが日課だ。それが終わったら、朝の食器などを洗い、自分の時間。美術館にいったり、映画館にいったり、
病院の日や、美容院の日もある。病院と美容院の日は、うちの店の前を通るので、必ずよってくれる。
ときどき、いつもお世話になってるおばあちゃんが「お返し」とばかりに、得意料理を披露する会
などがある。さしずめ「お世話しあうハウス」だ。
チンピラみたいな負動産屋の「損得計算」ではない、「新しい時代の暮らし方」のような気がして、
いつもこのおばあちゃんには、刮目(かつもく)しながら接している。

先週、お店の前でばったりであった。たぶん美容院にいくタイミング。「おはようございます」
と挨拶したら、「おはようございます」と答えた後に、「節分の豆もらったんだけど、わたしのまわりは
みんな総入れ歯なので、食べれないので食べて」といって、近くのお寺でもらったという豆をいただいた。

一昨日が節分で、昨日が立春。立春の日の朝は、知り合いの酒屋さんが、早朝車を走らせ、栃木の酒蔵「開華」までいき、
搾りたての酒に、神主さんが祝詞をあげた、尊い縁起酒を配達してくれる。10年以上の春の行事になっている。
昨日は寒くて、「熱燗」を所望するお客があまたいたけど、「今日は、立春朝搾りにしとき」といって、むりくり神酒を
だした。この日に、第一酒造株式会社が発行する「立春朝便り」という新聞のテンポイント(大きな見出し)

大切な人と「つながる」 新しい時代の立春朝搾り!

と書いてある。家族や友達な人と人との「つながり」がタブーになったかのような時代。
最近はそうでなくても、「無縁社会」といわれているのに、拍車がかかったごとく、だ。
昔の商家では、みそかには「きらず」(おから)を食べた。月がかわるけど、縁が切れないように、
という祈りがこめられた習慣。そして大晦日には、年越しそばを食べる。そばは「つなぎ(小麦粉とか)」をつかって打つ。
来年も縁が切れませんように、という大きな祈りがそこにある。

昨日は、ホボブラジルが、ほぼ空になったので、夕方から焙煎をして、終わったら10時を超していた。
それから、カウンターで立春朝搾りを飲んだ。新しい時代の開華を感じる一雫が、五臓六腑に
染み渡った。日々是好日。