片口の珈琲サーバー

白玉の歯にしみとおる酒は静かに飲むべかりけり  牧水

酒のおいしい季節になってきた。冬は炭火を木枠の手あぶり(囲炉裏)
にいれ、五徳の上に南部鉄瓶をのせ、そこに久保さんの備前の徳利をいれたり、
錫のチロリをいれて、酒を人肌にして飲む、のが、のむら流。
夏から初秋までは、冷や酒で飲む時は、片口(かたくち)に酒をいれ、それを
猪口(ちょこ)に注いで飲むスタイルが主流。

いわゆる「うつわや」にいくと、片口は酒器として売られている場合が多い。
先日かっぱ橋にできたてのほやほやのうつわやを覗いたら、唐津焼の有名なじいちゃんの
片口が売っていた。5万円ちょっと。彼の器としては安いかな?と思った。
その片口も、平たいものや小さなものが食卓にのると、すこぶる存在感がでる。
懐石料理には、必須のアイテムだが、普通の居酒屋なんかでそのような使いにでてくると、
「やるな」と舌鼓の前に、膝をたたいたりすることになる。「わたくし、片口が大好き」
なんていう女子と出会うと、肩に手を回したくなる・・セクハラジジィとかいわれて退場になるような時代やけど!

昨日の夕方、文庫ちゃんが珈琲を飲みにきた。
久保さんの新作の「輪花(りんか)のドリッパーと、同じく輪花で片口のサーバー」で、炭火珈琲を石臼で
ゴリゴリやって、珈琲を淹れながら談論風発・・・酒のみならず珈琲まで、「静かに飲むべかりけり」の文庫ちゃん
にビットがたって、「久保さんの新作いいですね」と大きな声で感嘆しながら、「見せてください」
というので、一杯分の珈琲を、カップにいれて供し、残りを自分用の蕎麦猪口に入れ、
カウンターにだした。器好きが誰はばかることなく、そうするように、女性の身体を愛撫するように、
なでながら・・・・「これ押上文庫の酒器の片口にしたいのですが」とのたまう。
さっそくその場で久保さんに電話して、寸法(高さが12cm 経が6cm・・・・白、焼き締め、織部がいい・・)
などと話あい、5分で商品会議を終えた。
スマホだインスタだで、「こんなもの作って食べてま~す・・・ボリボリ」の時代に、ぼくのガラケー会話で、ひとつの商品が
できあがる。三つ巴の「あうん」の関係。酒がますますうまくなりそうな秋。

久保さんとよく飲んだ大塚の江戸一には、「天真庵」の看板を揮毫してくれた貞本さんの書いた短冊がかかっている。

「一斗二升五合」

先日いった長野の蕎麦屋には、同じ意味だけど
「春夏冬二升五合」   が飾ってあった。「ごしょうばい」や「あきない」には、共通の「祈り」があるものだ。感謝。