昔の辞書は、エロ本だった?

先月、板橋の歯医者にいく前に立ち寄った古本屋で「能登」(集英社)を見つけた。
杉森久英という直木賞作家の自叙伝だ。
能登生まれで、金沢で多感な青春時代を過ごし、東大にいき、作家に
なっていく人生が描かれていく。能登と金沢は、同じ石川県だけど、文化も言葉も
風俗も違う。今でもそうだけど、彼らが生きた大正から昭和にかけての話は、読んで
いて大変おもしろい。古都の金沢、縄文時代が息づく能登、時代がかわっても、篩(ふるい)
にかけられない「ホンモノ」が残っている。

思春期に、親父から譲り受けた「言海」(日本で最初にできた辞書)で、「陰部」を見つける
くだりがある。ここを発見して、作家は大地が揺らぐような衝撃だったと書いてある。

(名)陰部 男女ノ体ニ 尿道ヲ通ジ 子ヲ生ス機関。

続けて「言海」を繰って「陰」の字をつく言葉を探してみた。
「陰茎」「陰嚢」「陰毛」「陰門」など・・・(先日紹介した瀬戸内寂聴さんのエロスの尼さんを思い出す単語
たち。きっと彼女の書斎にも「言海」があるに違いない)

作家は続けて、

これらはたぶん、人前で口にすることも憚(はばか)れるような言葉だが、「言海」の編者には、
まるで銀行の窓口が金の勘定をするように、冷静に、無感動に、事務的に説明の文句を書いている。
そして、いまようやく大人の世界をのぞきはじめた芳雄(主人公)は、これらの言葉をながめてるうちに、
これまで内に潜んでいた欲望が刺激され、さまざまの空想や妄想が繰り広げられているのだった。
・・突然、彼の体内に電流のようなものが走り、甘美な戦慄と恍惚のうちに、温かいものが流れ出るのを覚えた。
・・これも、本当だったのか・・

さすが東大にいく青年の、マス初体験は、辞書を繰りながらなんだ、と感心した!

この本の中に、金沢では能が盛んで、観世流ではなく宝生流が盛んである、との記述もあった。
先日遊びにきた般若家のM子も、宝生流の能を習っていて、今年石川県立の能舞台で、シテを見事に演じきった。
じいちゃんバカではないが、将来が楽しみだ。感謝。

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