♪タコ タコ タコ の足

今朝、たこやん(蛸用の疑似餌)をぶらさげて、近くの港まで歩く。
昨日は金沢などは、大雨警報がでていた。能登も日本海特有の鉛色の雲
がたちこめていて、今にも雨が降りそうだ。「タコスカシ」という能登の伝統漁法で
蛸をとる名人のおじいちゃんと、一か月ぶりの挨拶。「まだタコはおらんよ」とのこと。
このじいちゃんは、海を5分くらい見ただけで、「今日はいける」か「おらん」がわかるみたい。
タコもどこか👾(宇宙人)みたいな風貌だが、おじいちゃんもUFOで運ばれてきたような空気につつまれている。
たこやんの動かし方は、「ずるびき」とかいう不慣れな動線が大事なので、きたるべき旬.夏のために、イメージトレーニング。

昨日は一日雨だったので、晴耕雨読で「湖月館」ゆかりの福永武彦の随筆「遠くのこだま」を読み直した。
その中に「貝合せ」というのがあり、東京オリンピックの年の10月に作者が、はじめて能登を旅したエッセーが綴られている。
「湖月館」から歩いてすぐの増穂(ますほ)海岸は、外浦の中ではめずらしく砂浜の海岸線で、昔から貝殻を集めて、俳句をつくったり
する風流人を輩出した土地だ。古人たちは、拾った貝をあわせ、六歌仙貝、三十六歌仙貝などといって、一句ひねったり、貝を箱に入れたり
して遊んだ。今でもそんな文人墨客の残り香が、土着霊のように漂ってるところだ。今は「世界一長いベンチ」というのもできて、
ベンチに座って風光明媚な海を満喫できる。

随筆の最後に、かようなくだりがある。

その翌朝は雨が降っていた。私は宿屋の傘を借りて増穂の海へもう一度でかけたが、傘をさしていたのでは貝拾いでもあるまいから
途中で諦めた。宿屋に戻って土地の俳人たちの句集などを読んでいるうちに、バスの時刻になった。気の毒なほど安い宿賃を払い、
お土産だという例のビニイル入りの貝殻まで貰って、この素朴な宿屋をあとにし、北へ行くバスに乗り込んだ。
今でも私は、その時の貝殻を並べてみては、湖月館というあの小さな宿屋と、むすめむすめした若いお嫁さんのことを、
思いだすのである。

ひょっとしたら、昨日の白井さんが湖月館に泊まった年と、ビンゴか前後かも知れない。メールもスマホもしない(長いつきあいだけど、
手紙やハガキでしか連絡しない。しかも書簡が届いた後に、必ず電話)ので、上の文章を、モンブランの万年筆で書いて、宿で
もらったビニール(ビニイル?)に入った貝も同封し、
切手を多め(たぶん、90円くらいだろうけど、100円ちょっとベタベタはりつけた。
それをポストに投函しようと、玄関までいった時、「そうか、一番近いポストは、歩いて25分の総合デパート・中根酒店の前だ」
ということに気づき、今朝の「タコ釣り」で、その近くまで歩いた足で投函した。
ポストの上の電線で、ホオジロが、春を謳歌していた。この鳥は昔から、こう囀(さえず)る。

一筆啓上つかまつり候                         

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