月下独酌

昨日は満月だった。
夕方、近くのジュエリーデザイナーのまーくんが味噌をつくりにきた時、知った。
能登で生活する時は、満月の月明かりでアオリイカの夜釣りをしたり、月明かりの下で
独酌しながら、UFOを待ったり、朝はやく釣りや畑仕事をしていても、「月」の存在が
大きくたちはだかる。やはり東京にいると、めったに見ない。

同じタイミングで、画家のなほちゃんが、味噌の材料(大豆・麹・能登塩)を買いにきた。
いつものように、「そばがきぜんざい」を所望され、談論風発。
すると英語の岩本先生が、なほちゃんと席ふたつ置いて、座った。
「文膳(そばやの昼酒セット)、ヒヤでお願いします」とのこと。
「ヒヤはイヤや。ぬる燗にしてくれへん」と、わがままをいい、ぬる燗にしてもらった。
酒は「李白」。「燗つけUFO」(備前の燗つけ器に、隕石入りぐいのみとセット)で、山陰の美酒を人肌にして出す。

昨年の春から、寺子屋をやっていないので、岩本先生とも久しぶりだ。彼はとある有名なシンクタンクに属していて、
世界情勢を日本語で話してくれた。天真庵の寺子屋は、酒つきで、最初は下戸だった先生。講義の途中でこっくりこっくり
することが多く、「飲みながら英会話」を「英会話の後に酒を飲む」に変えた。でも今はときどき、昼そばを手繰りに
来るとき、そば前(そばの前の一献)を一合やるのがならわしになった。昨日は「この隕石ぐいのみで飲むと、うまくなりますね」
といって、お替りして二合飲んでいった。ぬる燗にして酒が美味くなるのを「燗上がり」なんていう言葉を使う。まことに、左党(酒飲み)
は、饒舌であり風流だ。

宝石やのまーくんが、おなじく隕石でつくった「マカロニ」の形状に一目ぼれして、「これジュエリーにしたい」
というので、ひとつわけてやった。「お風呂にいっしょに入れるように、蝋引きしてくれない」と要望した。(自分が使うわけではないけど)
少し酩酊した岩本先生(酩酊しなくても、ときどき頭がピーマンになる)が、「隕石と風呂に入るといいんですか?」と真っ赤な顔して聞くので
「昔、大酒飲みの作家で、一升瓶といっしょに風呂に入って酒を飲んでいた作家知らない?」と聴き直し、立原正秋のことを説明。
『冬の旅』『残りの雪』『冬のかたみに』などを学生時代に読んだ。彼の息子さんがやっているお店では、久保さんの器が使われていて、
一度久保さんといっしょに飲みにもいった。
ますます、脱線してくる・・・「一升瓶と隕石ぐいのみとお風呂に入ると、もっと元気になれますかね?」と聞く。
「ま、幸せな気分になるやろうけど、酒の弱い先生がやると、家族がのぞきにいったら、風呂に浮かんでいた、なんて危険はあるよ」と脅す。

6時の閉店になり、「お勘定」といって、ぐい飲みではなく、隕石コーヒーカップを買っていかれた。
「これといっしょに、今日から風呂に入ります」とこと。聞いたことないけど、彼はきっとAB型だろう。どことなく、ぼくに似ている。

李白は、酒と月の詩を多く残した。「月下独酌」は下戸でも知っているくらい有名。

 天若不愛酒 酒星不在天 地若不愛酒 地応無酒泉 天地既愛酒 愛酒不愧天

 もし天が酒を愛でていなかったら 酒星は天になかったろう もし地が酒を愛でていないのなら 酒泉の地が世界にあるはずもない 天地がすでに酒を愛していることかくのごとし 人が酒を好むのは天に愧じることではあるまい

酒飲みに愛される酒器に「月白均窯」(げっぱくきんよう)というのがある。能登ジェラトン(隕石器)のぐい飲みの肌は、どことなく
それに近い風情がある。スカイツリーに重なるように浮かぶ満月を愛でながら、昨夜は、ぼくも李白を一献。感謝。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です