父の納骨に延岡にいく。
五ヶ瀬川の川端の小さなお寺にいき、納骨をすませた。
幼きころ、この寺にお参りするとき、川辺の石がめずらしくて、いっぱい
拾ってポケットに入れ、ズボンが落ちそうになった、という話を何度となく母にきいた。
そのころ、まだ生まれてなく、ぼくが小学校のころ生まれたかわいらしい男の子が今の住職。
はなたれ小僧が立派な住職になった。彼は上洛して佛教大学で学ぶ。京都の話で盛り上がった。
その夜、涙雨のような中、ひとりで酒場にいく。あまりに寂しいので、お弟子さま(延岡でそばやを準備中)
に電話。「七万石」という老舗の居酒屋で剣菱を飲みながら待つ。3年ぶりにあっておおいに盛り上がり、
近くのバーへ梯子。健さんの映画にでてくる倍賞千恵子のような「こんな場所にありえないでしょう」という
美人のママがいて、またおおいに盛り上がる。彼女が最後につくってくれたウォッカのカクテルに、
不思議な柑橘がのっていた。スダチでもカボスでもない。「これは?」と尋ねると、「へべす」
と微笑みながらいう。日向の黒木平兵衛さんが発見して接ぎ木をし、つくったものらしい。平兵衛酢から命名。
ウォッカベースのカクテルで「神風」というのがある。
日向、美々津は神武天皇が船出した港として知られる。
ジンをベースにし、へべすをのせ、「ジンム」というのはどうだろう?そんなバカな話を談論風発していると
日付が変わった。
次の日は美々津の親戚の家にいく。幼きころ石並川で水泳や釣りやえびをとった記憶がよみがえる。
今はなきおじは養蜂とそばの製麺をやっていた。おばは96になり、近くのグループホームにいてお見舞いにいく。
耳が遠いのだが、体は元気。ホワイトボードで筆談。「ひさしぶりです」とかくと、にっこり笑ってお辞儀。
「おばさんのそばがうまかった」とかくと、「ようけ食べてくれたねえ」とはっきりと答えてくれた。
おばさんの蕎麦は、近くの畑で作られていて、汁は日向の椎茸がきいて美味かった。夏はそれに柑橘を
浮かべていたのを思い出した。「そうか、あれが平兵衛酢や」と半世紀前の記憶がよみがえった。
今日まで休み。午後は「蕎麦打ち教室」 夜は「ダメ中」 ダメ中は「土産にもらった平衛衛酢をつかった蕎麦」
ぼくの「かわたれどきの原点」のようなそば。