これが公害だ。

そんな本が半世紀ぶりに東京の出版社からでた、という新聞の記事を
見て、すぐにネットで注文した。著者は「林えいだいさん」。そのころ北九州市に
住んでおられ、「青空をとりもどす」運動をされ、七色の煙が誇らしげにたなびき、当時の
北九州市の歌にも盛り込まれていた時代を生きた人だ。

本が届いた。北九州市立「城山小学校」の写真がかなりのウェイトをしめている。
休み時間にうがいをする生徒たち、教室に設置された空気清浄機、運動場に設置された風見鶏・・・

ちょうど五十年前に、ぼくは城山小学校に通っていた。八幡製鉄ができる前は、城山と妙見山に挟まれた小さな城下町の跡地であり、洞海湾
という豊穣な海がある港町だった。そこが全国でも有数の公害の町になり、スポットライトがあたった時期がある。
ぼくはそこのソフトボール部のピッチャーで、笠間くんとバッテリーを組んでいた。笠間くんとは池袋時代に再会し、
お互いに仕事をやめたら「おじさん野球チームを作ろう」と約束した。

最近不思議なことに、よく夢を見る。しかもでてくる人物の「声」とか「会話」までしっかり残っている。
日本語であるし、映像はカラーである。
その本を見た時、不思議なことがおこった。しばらく封印しているはずなのに、空気清浄機の音、
うがいぐすりが「コロロ」という名であることを瞬間思い出し、その口の中に残る味も半世紀ぶりによみがえってきたり、ソフトボールをしていた運動場に
いた仲間たちの声とか顔が浮かび上がってきた。まるで映画の「フィールド オブ ドリーム?」のような感じ。
「人の記憶の歴」の引き出しというのは、実に妙なものである。

青空も、三丁目の夕陽も見えなかったけど、日本人が「明るい未来」へ向かって歩いていた時代だ。
高度成長をなし、みんなそこそこ中流あたりを平和に歩いているような気持ちにもなったけど、今
の時代というのは、「ほんとうに幸せな時代?」と思うことがしきりの毎日。
政治の季節を迎えた。政治家に期待をする時代ではないかも知れないけど、もう少し
「未来のこと」「自分以外の国民のこと」「お金いがいのこと」を、夢をもって語れる人になれや、
と思う。週末もスカイツリーの前で、なんやら党の有名人がきて、当たり前のことを大きな声だして
演説していた。それを見ていた外国の観光客が、日光かどこかのサルをみつかたようにはしゃぎながらカメラ
におさめていた。たぶんぼくたちは、そんな猿山みたいなところにいるのかもしれない。
半世紀後、どこかの国で「猿山小学校」の写真集がでたりして・・・